自分で付けた名前が後で読めないのを防ぐ、判定の問い1つと5つの型
もくじ
メモや設計の書き物を書いていると、途中で自分で名前をこしらえることがある。たとえば、勉強の予定を3つに分けて「枠A」「枠B」「枠C」と呼んだとする。付けた日は短くて便利だ。ところが、しばらく経つと、付けた本人にも意味が分からなくなる。数か月後に読み返す自分も、メモを初めて読む AI も、名前の意味を説明した所へ戻らずに、名前を見ただけで中身の見当がつくようにしたい。
この記事で言う「自分で作った名前」は、すでにある用語を借りたのではなく、書く途中で自分がこしらえた呼び名を指す。設計の書き物は、作るものの仕組みや、そう決めた理由を書き留めた文書だ。AI(人工知能)は、ここでは Claude のような、メモを読ませて作業を手伝わせる生成AIを指す。
だから僕は、名前の良し悪しを1つの問いで決めることにした。意味を説明した文を読まずに、初めて読む人が中身の見当をつけられるか。つかなければ言い換える。そのうえで、読めなくなる名前を5つの型に分け、名前を付けるときに当てはまっていないかを見る。とくに疑うのは、記号で置き換えた名前と、比喩を組み合わせた名前だ。
2か月前に自分で付けた名前が、自分で読めなかった
あるメモを見直していたときのことだ。2か月前に僕が自分で決めた、記号の付いた見出しの名前があった。実物は書かないので架空の名前に差し替えると、「移行ゲートB」のような形である。何かを判断するための条件だったのは分かる。ところが、何を判断する条件なのかを、字面から思い出せなかった。
書いたのは僕で、読んでいるのも僕だ。自分で掛けた鍵の番号を、自分で忘れている。
同じような名前がほかにも無いかを探した。すると、別の分野のメモにもいくつも見つかった。つまりこれは、たまたま1つ付け損ねた例外ではない。名前の付け方に決まりが無いせいで、繰り返し起きていたことだった。
名前の判定は、説明を読まずに初めて読む人が中身の見当をつけられるかの1つにする
判定に使う問いは、1つだけにした。
意味を説明した文を読まずに、初めて読む人がその名前を見て、中身の見当がつくか。
見当がつかなければ、言い換える。
ここで言う「初めて読む人」は2人いる。数か月後に読み返す自分と、そのメモを初めて読む AI だ。どちらも、名前の意味を説明した所へ戻らずに意味が取れる必要がある。数か月後の自分は、付けたときの頭の中をもう持っていない。AI は、最初から持っていない。立場は違っても、手元に字面しかない点は同じである。
自分で作った名前が読めなくなる理由は2つある。
1つ目は、名前を付けた時点では、頭の中に中身があることだ。「移行ゲートB」と書いた瞬間の僕には、その中身がはっきり見えている。だから、名前だけでは中身が伝わらないことに気づけない。
2つ目は、名前が別のメモへ写されていくことだ。たとえば、最初のメモで名前を付けて意味を説明し、次のメモからは名前だけを書く。名前は便利なので、どんどん写される。そして、意味を説明した文から離れた所で、名前だけが出てくる。
名前を付けた本人は、説明を読み直さなくても読めてしまう。読めなくなるのは、その本人が中身を忘れたときだ。
判定するのは自分で作った名前だけで、定着した専門用語や固有名詞は外す
すべての語をこの問いにかけるわけではない。次のものは判定の対象にしない。
- 定着した専門用語。たとえば、データベースやバックアップのような、分野で広く使われ、意味が共有されている語
- 固有名詞。人名、会社名、サービス名、ファイル名
- コードの中の変数名。たとえば
isParkedのような名前は、人が読む文章に出てこないなら英語のままでよい - 案件番号のように、はっきり識別のために付けた番号
迷ったら、その語が自分のメモの外で通じるかを見る。通じるなら定着した用語で、通じないなら自分で作った名前である。
判定の流れを図にすると、こうなる。
読めなくなる名前の5つの型
自分のメモで見つかった名前を並べると、読めなくなり方は5つに分かれた。下の例は、どれも架空のものに差し替えてある。
| 型 | 悪い例 | 読めなくなる理由 | 言い換えの例 |
|---|---|---|---|
| 記号で置き換えた名前 | 枠B、手順2 | 記号と番号が中身を隠す | 週末にまとめてやる勉強 |
| 英単語をそのまま日本語の動詞にした名前 | 「月末まで park する」「park 中」 | 英単語の意味のどれを指すのかが決まらない | 月末まで後回しにする |
| 比喩を組み合わせた名前 | 燃料補給の日、着火剤タスク | 比喩が指す先は、付けた人の連想しだいである | 手を付けやすい小さな作業 |
| 英語のまま置いた名前 | deep slot | 英語の語を並べても、この文脈で何を指すかが分からない | 邪魔の入らない2時間 |
| 標準の言い方からずれた名前 | 見切り発射 | 標準の言い方(見切り発車)を知る人ほど、別の意味かと迷う | 見切り発車 |
新しく名前を付けるときは、その名前がこの5つの形になっていないかを見る。
5つのうち、とくに疑うのは1つ目と3つ目だ。どちらも、付けた本人には読めてしまう形をしている。
悪い例と良い例: 記号で置き換えた名前
記号で置き換えた名前は、何かを分けて数えたいときに出やすい。勉強の予定を3つに分けたら、つい「枠A」「枠B」「枠C」と呼びたくなる。
ところが、番号や記号が伝えるのは順序だけだ。「B」が教えてくれるのは、「A の次」ということだけである。
悪い例: 番号だけが別のメモに写った名前
最初のメモでは、名前と意味がそろっている。
## 今月の勉強の予定
- 枠A: 毎日やる勉強
- 枠B: 週末にまとめてやる勉強
- 枠C: 気が向いたら読む本
数か月後、別の振り返りのメモにはこう書いてある。
枠B が回らなかったので、枠C に寄せる。
このメモだけを読んだ人は、何が回らず、何に寄せたのかが分からない。最初のメモを探しに行けば分かるが、それこそが、この判定で避けたい「説明へ戻る」動きだ。
良い例: 中身を表す語を前に置き、番号は後ろに添えた名前
週末にまとめてやる勉強(枠2)が回らなかったので、気が向いたら読む本(枠3)に寄せる。
名前には中身を表す語を置く。番号が要るなら、その後ろに添える。番号を消してもよいが、並びの順に意味があるなら、添えておけば順序も伝わる。
ただし、番号がいつでも悪いわけではない。1つのファイルの中で意味を説明し、そのファイルの中だけで使う番号は壊れにくい。たとえば、1つの作業について書いたメモの冒頭で「このメモでは、手順を1〜3と呼ぶ」と決め、そのメモの中でだけ「手順2」と書く。読む人は、説明と番号をセットで見るからだ。
実際に読めなくなるのは、いくつものファイルに散った番号である。説明から離れた所で、番号だけが出てくる。僕のメモでは、同じ番号の書き方で、互いに関係の無い分け方がいくつも並んでいたことまであった。「手順2」と書いてあっても、どの「手順」の2なのかさえ分からない。
悪い例と良い例: 比喩を組み合わせた名前
比喩を組み合わせた名前は、付けた瞬間がいちばんよく効いて見える。短く、覚えやすく、ちょっとうまい。だから5つの型の中で、最も見落としやすい。
とはいえ、比喩が何を指すかは、付けた人の連想で決まる。同じ字面から、他人が同じ中身を思い出せるとは限らない。
悪い例: 燃料補給の日
来週の水曜は燃料補給の日にする。
付けた本人は、「新しい教材を読むだけで、手を動かさない日」のつもりで書いたとする。ところが、初めて読む人には、ほかの読み方がいくらでもある。勉強を休む日かもしれない。おいしいものを食べに行く日かもしれない。どれも「燃料補給」として筋が通ってしまうのが、比喩の困った所だ。
良い例: 中身をそのまま書いた名前
来週の水曜は、新しい教材を読むだけで手を動かさない日にする。
長くなった。そのかわり、読み方は1つしかない。うまいことを言えた、と思った名前ほど、この問いにかけたほうがいい。
付けてしまった名前は一括で置き換えず、文脈を見て1つずつ直す
すでに付けてしまった名前は、一括で置き換えない。
たくさんの所で使われている名前ほど、文脈ごとに合う言い換えが変わるからだ。たとえば「燃料補給」が、いくつものメモに出てくるとする。
- 「燃料補給の日」は、「新しい教材を読むだけの日」になる
- 「先週は燃料補給した」は、「先週は新しい教材を読んだ」になる
- 「燃料補給が足りない」は、「新しい教材を読む時間が足りない」になる
全部を「新しい教材を読むだけの日」に機械で置き換えると、「先週は新しい教材を読むだけの日した」のような文ができあがる。日本語が壊れる。だから、1か所ずつ文脈を読んで直す。同じ語なのに、ある所だけ別の意味で使っていた、ということもある。そういう所には、別の言い換えを当てる。
派生した語も、同時に直す。たとえば「燃料補給」だけを直して、「補給率」や「補給ゼロの週」を残したとする。元の名前を知らない人には、どれも前より読みにくくなる。親の名前が消えて、子の名前だけが残るからだ。
急がない名前は、そのメモを別の用事で開いたときに直せばよい。
機械で見つける仕組みは作らず、名前を付ける場面に判定を置いた
決まりを書いても、次に名前を付けるときに思い出さなければ、また同じことが起きる。だから、どこで止めるかを考えた。
案は2つあった。
- メモを点検する仕組みに、読めない名前を自動で見つける検査を足す
- 名前を付ける場面の手順書に、判定の問いを書いた文書へのリンクを足す
自動で見つける案は見送った。読めるかどうかは、機械では判定しにくい。そのうえ、定着した専門用語、固有名詞、コードの中の変数名といった対象外の語を、機械で外す必要まである。読める名前まで「読めない」と判定する誤りが多くなりそうで、その手間が高くつく。自動の検査を足すのは、決まりが固まり、読めない名前の例がもっと集まってからでよい。
そこで、会話で検討したことをメモに書き留めるときの手順書に、判定の問いを書いた文書へのリンクを足しただけにした。手順書に沿ってメモを書く途中で、名前を付ける前に問いを読み返せるようにするためだ。名前がいちばん多く生まれるのはこの場面で、読めなかった「移行ゲートB」の形の見出しも、ここで生まれていた。リンクを足すだけなら、誤って止めることも無く、外したときの損も小さい。
ただし、これは完全な網ではない。日々の記録をつけているときや、その場の会話の中で生まれた名前は、この手順を通らないので素通りする。再発が続くようなら、文章を書くときの手順にも同じリンクを足すつもりだ。
名前は、付けた自分ではなく、何も覚えていない読み手が中身を思い出せるかで決める
自分で作った名前は、意味を説明した文を読まずに初めて読む人が中身の見当をつけられるか、の1つの問いで判定する。とくに、記号で置き換えた名前と、比喩を組み合わせた名前を疑う。どちらも、付けた瞬間の自分にだけは、よく読めてしまうからだ。
名前を読む日の自分は、付けた日の頭の中をもう持っていない。2か月前の僕が付けた見出しを、今の僕が読めなかったように。
おわり😊

